私たちは、体性幹細胞が様々なエクソソーム※を出すことにより、
細胞ニッチ※に働きかけ、それが組織の修復や再生につながるというパラクライン効果が再生治療における主役ではないかと考えて、このパラクライン効果を最大限生かすための研究を行っております。
パラクライン効果とは細胞からの分泌物が直接拡散などにより近隣の細胞に作用することです。
一方、大循環を介して遠方の細胞に作用することをエンドクラインといいます。
パラクライン効果に必要な幹細胞培養上清液は、歯髄、骨髄、脂肪、臍帯などの幹細胞を利用して作られますが、その中でも特に生理活性物質の量が多いと報告されているのが乳歯です。
私たちが着目しているのは、特にエクソソーム(ほとんどの細胞で分泌される直径 50nm ~ 150nm 程度の微小粒子)であり、関連会社のDEXONファーマシュティカルズ株式会社においては東京医科大学の落谷孝広教授らと共に、研究を進めております。
エクソソーム(Exosome)は、離れた細胞や組織と情報交換することで細胞を変化させ、ウィルスや腫瘍に対する免疫に関する応答、細胞修復、神経伝達などを行うといわれています。
細胞外小胞(Extracellular vesicle)の一種とされており、細胞外小胞にはエクソソームのほかにマイクロベシクル、アポトーシス小体があり、それぞれ産生機構が異なります。
最新の研究では、エクソソームや細胞外小胞に内包されるmicroRNAは細胞ごとに異なり、接する細胞に良い情報も悪い情報も伝えることが明らかになっています。
そのため、エクソソーム由来のRNAは癌をはじめ様々な疾患のバイオマーカーとして注目されています。
また、体液や細胞培養液中にはタンパク質結合RNAの遊離循環RNA(fc-RNA:free-circulating RNA)があり、こちらはアポトーシスやネクローシスによって細胞から漏出します。
エクソソーム内にあるRNA分子やタンパク質に結合したRNA分子(fc-RNA)は、体液や細胞培養液から抽出することができ、これによって疾患のモニタリング
において多くの情報を得ることができると考えられています。
国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 勝田 毅氏、落谷孝広氏の論文によると、次のように腎疾患における記述があります。
「腎疾患において、すでに複数種の急性腎疾患モデル動物を用いた研究から、移植された MSC (中胚葉由来の結合組織に存在する、多分化能をもつ幹細胞)が、生存している上皮細胞に対してパラクライン的に働いて組織再生を支持することが知られていた。
興味深いことに、エクソソームによる治療効果は mRNA の伝達を介したものであることが示唆された。
これらの mRNA の中には転写制御や増殖、免疫調節などに関わるものが多く含まれており、組織の再生誘導に寄与していることが示唆された。
その後、別の動物モデルを用いた実験からも、MSC― エクソソームが急性、慢性両方の腎障害に対して治療効果を示すことが報告されている。」
引用:新規治療薬開発への間葉系幹細胞由来エクソソームの応用可能性
URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/29/2/29_140/_pdf
また、落谷教授の近著には次のように著されています。
「体内で善行をするエクソソームも存在しています。
それは再生医療分野で話題の間葉系幹細胞などから分泌されるエクソソームです。
最近、こうした間葉系幹細胞の疾患・創傷治癒能力の多くは、エクソソームが担っていることが明らかにされつつあります」(Katsuda & Ochiya, StemCell Res Ther, 2015)。
さらに、シンガポール、米国など国際的には、間葉系幹細胞のエクソソームを疾患治療に応用するための臨床試験まで開始され、実際にヒトに投与されています。
これはまさに現行の標準治療薬では効果の期待できない疾患患者や、難治疾患に関しては救いの神であり、今後エクソソームのレギュラトリーサイエンスを確立させることで、その治癒効果の科学的根拠の実証と臨床への応用が進むことを願っています。
※Exosome(エクソソーム・エキソソーム)は、ほとんどの細胞で分泌される直径 50nm ~ 150nm 程度の膜小胞です。
生体では唾液、血液、尿、羊水、悪性腹水等の体液中で観察され、培養細胞からも分泌されます。
近年、エクソソームは、離れた細胞や組織に情報を伝達するための役割を担っている可能性が指摘されています。
※造血幹細胞ニッチ (英名:Hematopoietic stem cell niche)とは骨髄において造血幹細胞と、それを支持する細胞によって作り出される微小環境のこと。