幹細胞は「ホーミング」という能力を持っています。

人間の体内は約200種類、37兆個もの細胞で構成されており、日々入れ替わり、怪我や病気、老化などによって損なわれていきます。

しかし、これらの細胞を蘇生させ、組織が病気や事故などによりダメージを受けた際に失われた組織を補充する能力を有しています。

いわば人体のレスキュー隊のように作用する細胞が「幹細胞」なのです。

幹細胞の大きな特徴は、自分と同じ能力を持った幹細胞に分裂できる能力(「自己複製能」)と、身体を構成している血液・皮膚などの様々な細胞に分裂できる能力(「分化能」)を有していることです。

生誕時には体内に約100億個の幹細胞が存在していますが、年齢と共に逓減していき、60才ではたったの2億個程度しか残っていないといわれています。

貴重な幹細胞の減少に伴い、体内のあちこちで発生する損傷や疾患をカバーしきれなくなった結果、疾患が重症化してしまったり、加齢が進むというわけです。

幹細胞治療において投与された幹細胞は、血流に乗って体内をパトロールし、体内の損傷を受けている部位や疾患部位を見つけて自然に集まり、細胞に働きかけて治癒を促す「ホーミング効果」と呼ばれる作用を発揮します。

幹細胞上清療法『SGF』による糖尿病合併症治療は、ホーミング効果により、血管が修復され、合併症予防に効果が見られます。

LOX-index(糖尿病合併症の一つである脳梗塞・心筋梗塞発症リスク)の検査結果からみても血管の修復が行われており、腎機能障害の指標であるクレアチニンの数値も改善の傾向にあります。

国際幹細胞普及機構の記事によると次のように述べられています。

幹細胞が持つ「ホーミング」の性質を利用した治療は、再生医療において実際に行われています。

開発中のものも含まれますが、「ホーミング」を利用した再生医療の具体例を4つご紹介します。

1.脳梗塞

脳梗塞は、脳の血管が閉塞することで引き起こされます。

脳の血管が閉塞すると、酸素や糖分の供給が不可能となり、脳の細胞が死んでしまいます。

閉塞の発生する血管や障害を受ける脳の部位によって、麻痺、言語障害、意識障害を引き起こすことがあります。

これまで「障害をうけて死んでしまった脳の細胞は元の状態には戻らない」といわれていました。

そのため、障害を早期に食い止め後遺症を最小限にするために、脳梗塞の治療は時間との勝負だといわれています。

しかし幹細胞を用いた治療により、障害を受けた脳細胞の再生が可能であると近年の研究で明らかになり、治験が進んでいます。

この治療には骨髄や脂肪由来の幹細胞が用いられます。

患者さん自身の骨髄や脂肪組織から間葉系細胞を採取し培養し、幹細胞を点滴により投与します。

ホーミングにより障害を受けた脳細胞へと運ばれ、脳梗塞そのものの改善や、後遺症を軽くする効果が期待されています。

2.筋萎縮性側索硬化症(ALS)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは体中の筋肉が徐々に衰弱していく病気です。手足の痺れといった症状から始まり、徐々に体が動かなくなっていきます。

運動神経が障害を受け、最終的には嚥下機能が消失、呼吸が不可能となっていきます。原因は不明であり、治療法も確立されていません。

このような状況で、期待されているのが幹細胞を用いた治療です。

幹細胞を点滴することで障害を受けた神経に作用し、症状を改善させたり、進行を遅らせたりする効果があるということがわかってきています。

3.脊髄損傷

事故などにより外的な刺激で脊髄が損傷すると、麻痺や知覚異常などを引き起こします。

完全麻痺になると、下肢や四肢が全く動かせない状態となり感覚も失われます。脊髄も脳と同じように、一度障害を受けてしまった細胞は元に戻らず、現時点では有効な治療法は見つかっていません。

この脊髄損傷にも幹細胞を用いた再生医療が有効であるとわかってきました。

培養した幹細胞を点滴により投与すると、損傷を受けた幹細胞に作用し、障害された脊髄を再生させる効果が期待されています。

糖尿病

糖尿病には、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンが深くかかわっています。

しかし、何らかの原因によりインスリンの働きが悪くなったり、インスリンがうまく分泌できなくなったりすると血糖が高い状況が続きます。

この状態が糖尿病です。

最初は無症状のことが多く、症状が進行すると様々な合併症を引き起こします。

糖尿病性の網膜症になると失明するリスクが高まります。

糖尿病性の神経障害により、末梢の血流が障害されると足や手を切断しなければいけなくなることもあります。

膵臓の機能低下に対しても、幹細胞を利用した再生医療で機能回復させる効果が期待されています。

この他にも「ホーミング」を利用した治療法が医療機関で実施されています。

引用:幹細胞の「ホーミング」という性質を利用した再生医療について/国際幹細胞普及機構

URL:https://stemcells.or.jp/homing-effect/